根系発達と倒木腐朽度の時系列動態から紐解く倒木更新の成否

研究期間 2021年06月2022年03月
岡田 慶一 生物産業学部北方圏農学科 助教

専門分野:森林科学関連

ko207453@nodai.ac.jp

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キーワード
  • 天然更新
  • 生物学的遺産
  • 菌根菌
  • 酵素活性
研究の背景と目的
 倒木更新は、樹木動態や森林の生物多様性を支える重要な更新プロセスとして認識され、これまで、土壌病害や(倉田1949日林誌)林床植生からの被陰阻害の回避など、そのメカニズムが明らかにされている。一方で、繁殖可能な大きさまで実生が倒木上で成長することは難しく、最終的には土壌中へ根系を伸長させることが必要である。倒木実生が土壌まで到達することの最大の利点は、栄養や水分などの資源制約が大幅に緩和され得ることにある。倒木上では貧栄養な腐朽木材由来の資源しか利用できないため、土壌への根系進出は、利用可能資源の拡大による実生成長のブレイクスルーとなると予測される。この仮説を明らかにするために、本課題では、①土壌への着根が倒木実生の成長に及ぼす影響を幹・根の年輪解から解析した。さらに、②土壌に伸長定着した根系の栄養獲得能力を、物理的、生理学的な側面を評価する。特に、冷温帯林に多い外生菌根性の樹木では、菌根菌の有機物分解能が発達しているため、菌根の有機物分解能を併せて評価するための環境整備を行った。これら樹木根と菌根菌まで含めた栄養獲得に関与する生理機能から、成長応答に至るまでの一連の因果関係を解明することで、倒木実生が土壌定着に至るプロセスの更新における意義を明らかにする。
展開可能性(他領域・社会にどのようなインパクトを与えるか)
社会的波及効果  倒木更新の生態学的な重要性は、研究者のみならず林業従事者にも十分に認知されているにもかかわらず、保全型林業や森林再生における現場での実用は限定されている。その決定的な理由として、森林管理の現場での実効性に関する知見が不足していることが大きい。倒木環境を整えた場合に、その施業がどの程度林木成立に寄与するかを予測するには、更新木の定着やその後成木に至る確率、定着・成長にかかる時間・環境条件などの実測値が必要である。これら更新プロセスの理解に不可欠な知見が体系的に調査された事例は乏しく、積極的な施業として実装するための、より詳細な実測情報が必要だと考えた。これまでの知見を現場で応用・実用化する上で、特に知見が不足している土壌定着段階の情報を補完する本課題の必要性は高い。倒木更新木の根系に関して、病害回避の側面からの知見は多いものの、栄養吸収機能や成長応答との関係はこれまであまり着目されていない。土壌到達によって最も環境が変化するのは根系であるため、本課題ではその根系の生理機能に焦点を絞った研究を行う。 関連する国内外の研究動向と研究シーズとしての将来性  倒木や立ち枯れ木などの枯死木は、樹木更新に加えて、生物多様性を創出する重要な要素として認識されており、北方林をはじめとした研究から、その生態学的な意義について理解が普及している。さらに欧米諸国では、倒木・枯死木を保全した森林管理が普及しつつある。 森林管理の歴史的には、病害虫繁殖の防止や山火事地域での延火抑制など、自然災害の抑止の観点から枯死木は除去するとういう考えが一般的だった。例えば北米では山火事後に行われるサルベージロギングなどが代表的だったが、近年では生物多様性への負の効果も指摘されており、倒木を含む枯死木を保存した森林管理が推進しつつある。  現存している森林の維持管理では倒木の活用が進む中、森林の再生を目指すような育林では、倒木更新を期待した施業は実用されておらず、苗木を植えて植林するのが一般的である。苗木を植える場合でも、国内のササが卓越する地域では被陰による更新阻害が厳しく、樹林の再生は容易ではない。実際の森林施業でも、重機でササの掻きおこしを行った上で苗木を導入するなど、初期の被陰を防止する措置が必要である。その点において、倒木更新では、倒木上でササの被陰を回避でき、大規模な土壌攪乱も避けることができるため、より保全に配慮した育林を実現できる。本課題で得られる成果は、このような施業の実用化に具体的な知見を提供することができる。特に、進行する温暖化に伴い、北海道などササの分布拡大が進む地域においては、倒木更新を期待した森林施業はより重要になると予測される。
シーズの特徴
特徴1
年代学と土壌生態のコラボ
特徴2
天然林施業の遺産である伐根の更新における意義を問う
研究業績・研究室(URL)
https://dbs.nodai.ac.jp/view?l=ja&u=100001372
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